2002/04/20
一夜にして白髪の話
科学を扱う場合、あらゆる可能性を考慮し、また実際に存在する事象に出くわした場合に自らの固定観念に囚われることで、本質を見失うことがあります。
その例として、一夜にして白髪という話を取り上げてみましょう。私が初めてこの話を読んだのは、たしか手塚治虫のミクロイドSという漫画でした。その後、明日のジョーやベルサイユの薔薇でも同様の話が存在しているのを知りました。髪の毛が黒いのは、メラニン色素(正確にはメラノサイト)の働きという話は聞いたことがあると思います。過度の恐怖や心労を与えられたりすると、髪の毛が白くなるのは本当です。実際、私はかなりの白髪なのですが、髪の毛を観察すると、年輪のように時期によって白かったり黒かったり、と縞模様になっていることもあり、それはストレス状態かそうでないかの時期によって決定されています。しかし、このような心労による白髪化では、既に生えている髪の毛にまで作用することはありません。よって、メラノサイトの消滅によって白髪になるには、髪の毛の生え変わるまでの長い時間が必要となります。だから一夜にして白髪になることは、ありません。・・・という結論を出すのは、まだ早いです。実は、メラノサイトがあっても髪の毛が白くなる(白く見える)ということがありえるのです。ちょっと名前は失念してしまいましたが、あるアルコール中毒の男の髪の毛が一夜にして白髪になったという現象が確認されたとき、その髪の毛を調べてみたというものがあります。この男の髪の毛は、メラノサイトは存在していたのですが、その周りの毛皮質に細かい気泡が存在しており、それによって光が乱反射されて白く見えていたのです。なお、この気泡を除去したところ、その男の髪の毛はまた黒く戻ったということです。
メラノサイトが一夜で消滅することは無いから髪は一夜で白くならないというのは、そこで別の可能性を封鎖してしまったために発生した間違った考えです。私はこのような硬直した脳を持った人間が書いた科学書モドキが飛ぶように売れている現状を憂わずには、いられません。


 

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