2002/05/26
わかりやすい説明の話
「本当に頭の良い人とは、どんな人にでもわかりやすく説明できる人だ」と言う人がいます。これは本当でしょうか。
私は、この言葉はある意味で真だと思います。ただし、それはそう言っている人の思っている理由からではありません。どんな人にでもわかりやすく説明できる人というは、非常に優秀な詐欺師であり、その人がついている嘘が聞き手にわからないくらい優れているから、頭が良いのです。たとえば量子論を語る場合、相対性理論を知らないと話になりません。相対性理論を語るためにはニュートン力学を知らないと話になりません。ニュートン力学を知らない人に量子論を語るというのは、たとえるなら足し算のできない子供に方程式を語るようなものです。それが可能かどうかはちょっと考えただけでわかるはずです。頭の良い詐欺師は、ニュートン力学を知らない人にも相対性理論をすっとばして量子論を教えることができます。しかし、それは足し算のできない子供に方程式を教えているようなもので、ごまかしに過ぎず、聞き手を「わかった気」にさせるだけです。そこには本質はありません。よって、聞いているほうは本当に理解しているわけではありません。そのような不完全な教え方をもって、相手をわかった気にさせることは正しいことではなく、正しい道とは、ある一定の基準を設けて、その基準をクリアした人に対して、本質的な理解をさせることだと、私は思います。ですから量子論を語るならまず相対性理論を理解しているものとして話しますし、もし相対性理論を理解していないなら、相対性理論の説明から始めます。時と場合によってはニュートン力学から説明します。そうしないのは、聞き手を馬鹿にした行為であり、相手に対する不誠実だと思うからです。
現実的には、聞き手を手っ取り早く「わかった気」にさせる不誠実な説明のほうがウケが良く、基礎から始めて本質的なレベルまでしっかり教えるような誠実な教え方はウケが悪いです。それでも、私は誠実な教え方を選びます。
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