2002/04/15
光速を越える話1
少し前の話になりますが、NECの北米の研究所が光の速度より早いパルスを発見したというニュースが世界を駆け巡りました。すわ、タイムマシンの実現か?と色めきたった人も一部には居たようですが、私を含めた大半の人が「あっそう」で終わらせてしまいました。
これには理由があり、光の速度より速い光自体は、既にチェレンコフ光現象で検出されていたからです(余談だがスーパーカミオカンデは、この現象を検出するための装置)。実はこのチェレンコフ光現象自体には誤魔化しというか、トリックがあります。チェレンコフ光現象というのはニュートリノが電子と衝突した際に起こる現象で、ニュートリノのほうが電子よりもエネルギー量が大きいため、ニュートリノも電子も両方とも、ぶつかった方向に向かって弾き飛ばされます(ボーリングの球をピンポン球にぶつけた時の運動を考えてもらうと判り易い)。このときに、はじかれた電子が光の速度を越えたように見えるという現象です。実はこれは水中においてのみ確認される現象で、光の、みかけ上の速度は水によって屈折されてスピードが落ちるのですが、電子のほうは水による屈折の影響を受けないために、みかけ上の速度が水中を進む光の速度を越えるように見えるという話。変な例えですが、幅のある道を電信柱に向かってジグザグに進むよりも真っ直ぐ進んだほうが速かったということです。さて、NECの実験に関しては、私が最初に思ったのはトンネル効果です。量子論におけるトンネル効果を考えると、光子が光速を越えうることが判っています。別にこのことは相対性理論とは矛盾しません。何故なら相対性理論における問題とは情報伝達速度が光速を越えないこと(誤解を恐れずに言うなら質量の存在する物質が光速を越えないこと)であり、光速を越えること自体に問題はないからです。ところが、今回のNECの論文を読んでみると、どうもトンネル効果を用いたものでは無さそうです。では、一体全体どういう現象だったのでしょうか。
続きます。
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