2001/10/28
海綿状脳症の歴史の話2
続きです。
ガイデュセックはクロイツフェルトヤコブ病に対しても同様の実験を行い、伝染性を確認しました。ところが、ここまで明らかになっておきながら病原体は見つかりませんでした。しかも、感染した脳細胞を高圧蒸気やホルマリンや紫外線で滅菌しても感染力が消えませんでした。そこでこれはウイルス感染後長期経過してから発症するスローウィルス感染症の一つであろうとされていました。しかし、この説は素人目に見てもおかしな説です。スローウィルス感染病なら、感染力は消えているはずで、消えていないというのはおかしなことです。結局真の原因はわからないままうやむやにされたのです。真の原因を知るには一人の天才の登場が必要でした。その人こそ、この研究でノーベル医学生理学賞を受賞することになる、カルフォルニア大学の「天才」スタンレー=プルシナーです。プルシナーは10年以上もの歳月をかけてクロイツフェルトヤコブ病の原因について、DNAやRNAといった遺伝子情報を持たない、ただのたんぱく質(プリオン)がその原因であると喝破しました。ところがこの説は当時の科学常識から大きく逸脱しており、とても信じられるものではありませんでした。この説はプルシナー本人をイカサマ扱いする学会とプルシナー支持者との間で大論争となり、プルシナーに対する個人攻撃にまで発展しましたが、急速に発展した分子生物学によってプリオン原因説が証明されていきました。さらにもう一人の人物を紹介する必要があります。イギリス中央獣医学研究所のジョン=ワイルスミスです。彼は1986年に発見された狂牛病(正確には牛海綿状脳症)の原因について、その餌の観点から調査を行い、あることに気づいたのです。イギリスでは1920年代に牛の餌に羊肉や肉骨粉が使われだしたことや1980年代に肉骨粉の生成方法が変更されたことに注目し、スクレイピーに冒された羊の肉骨粉が牛に使われたために狂牛病が起こったという説を提唱したのです。つまりスクレイピーのプリオンがそれを食べた牛の腸管からリンパ節などを経て脳に辿りつき、そこで増殖したということです。
続きます。
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