2002/01/21
本調理器具の科学の話1
保温調理器具というものがあります。これは色々なメーカから色々な名前で売られていますが、基本的な構成は二重になった鍋で、その原理は魔法瓶のような代物です。これを火にかけ、沸騰したところで火から降ろしてあとは放置しておけば、あとは余熱で煮物でもなんでも美味しく簡単に作ることが出来る、らしいです。
らしいです、と書いたのは、その原理がいまいちよくわからないためです。この保温調理器具が美味しく料理を作れる理由としては一応、「香りを逃がさない」「最適調理温度を保つ」「味は冷めるときに染みこむ」ため、とされています。「香りを逃がさない」というのは確かに香りというのは一種の揮発成分ですから、密閉容器で低温で調理すれば香りの逃げる量が減るのは道理です。これは納得できます。次に「最適調理温度を保つ」ですが、これもようは魔法瓶ですから、わかります。納得できないのは最後の「味は冷めるときに染みこむ」。保温調理器具の説明を色々と見てみましたが、どれもこれも、このことがさも当たり前のように書かれています。ひどいものになると、「理屈よりも実践」などと平気で書かれています。それは逆でしょう。たしかに科学というのは、まず実験があり、その結果の理由を考えるという形で進歩してきました。ある仮説を打ちたてればその仮設の範疇で収まらない事象が本当に存在しないか調べ上げ、見つけたらそれに対する理論をみんなで考える、というのが科学というものです。つまり、経験論だけでは足りないのです。にも関わらず、この保温調理器具は日本の最高学府である東京大学の応用物理学の名誉教授たるものが、「保温実験」だけを根拠に「味はゆっくりと冷めていくときに最もよく染みこむ」と述べているのです。冗談ではありません。たとえそれが事実であったとしても、そのことを何らかの理論をもって証明しなければ、そんなものはただの戯言にすぎません。しかもこの理論自体、そう難しい話ではないと思います。
続きます。
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