2001/11/03
海綿状脳症治療の話
知ってのとおり異常プリオンは特殊な構造をしており、通常の対細菌対ウイルスのための消毒滅菌法は、まったく通用しません。そのためプリオンの破壊(正確には不活性化)にはかなり特殊な方法を用いる必要がありますが、人体に適用できるような生易しいやりかたでは破壊はできません。しかも、異常プリオンは正常プリオンに劣るところが何一つありませんから、異常プリオンを破壊しようとすれば正常プリオンも壊れてしまいます。効果的な解決法があるとは思えません。ところが、コロンブスの卵のような発想で治療法を開発したチームがありました。それは異常プリオンの増殖を抑える抗体です。
この抗体の開発にはカルフォルニア大学のサンフランシスコ校が中心となり、日本でも国立精神神経センターの神経研究所が参加しています。異常プリオンが正常プリオンに接触すると正常プリオンが異常プリオンになってしまい、その結果異常プリオンが増えるという、核酸を通さない増殖メカニズムは一見弱点がないようであります。しかし、これは実は致命的な弱点となるのです。つまり異常プリオンの最大の弱点とは正常プリオンと接触しなければならないことなのです。このチームは正常プリオンには関係なく、異常プリオンにだけ結合しやすいという数種類の人工たんぱく質を作りました。つまり、異常プリオンが正常プリオンに接触しようとしたときに抗体と接触してしまい、正常プリオンに接触できないようにしようという試みです。これを異常プリオン感染させたマウスの培養細胞に投与したところ、この抗体のうちの4種類によって異常プリオンの増殖が抑えられ、またそのうちの2種類には特に効果があることがわかりました。さらにこの培養細胞をマウスに戻したところ、発病しないことが確認されました。異常プリオンがなくなった理由はまだ完全にわかっていませんが、恐らく自然分解されたと考えられています。
この抗体はまだ直接マウスに接種させる実験や、マウス以外での実験などが行われていませんが、近い将来非定型だけでなく、狂牛病やクロイツフェルトヤコブ病全体の特効薬になる可能性があります。期待しましょう。
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